CULTURE.NAGANO長野県文化芸術情報発信サイト

特集

いいだ人形劇フェスタ “日本最大の人形劇の祭典”4年ぶりの通常開催へ

いいだ人形劇フェスタ “日本最大の人形劇の祭典”4年ぶりの通常開催へ

「人形劇のまち」飯田の夏を彩る「いいだ人形劇フェスタ」が、4年ぶり、コロナ禍を越え、通常開催されます。8月3日(木)~6日(日)の4日間、飯田市街を中心とした約100カ所の会場に、各地から250以上の人形劇団が集う、日本最大の人形劇の祭典です。

いいだ人形劇フェスタには、40年余りのあゆみがあり、伊那谷の人形芝居の伝統文化がその素地ともなっています。住民からプロフェッショナルまでさまざまな担い手が参加し、長い時間をかけて地域に浸透してきた、飯田の人形劇の現場を取材しました。

いいだ人形劇フェスタのあゆみ

飯田市を含む下伊那・上伊那地方では、江戸時代から人形浄瑠璃が盛んでした。現在も受け継がれている黒田人形(飯田市上郷)・今田人形(同市龍江)・早稲田人形(下伊那郡阿南町)・古田人形(上伊那郡箕輪町)は「伊那谷四座」と呼ばれ、黒田・今田・早稲田は国の、古田は県の選択無形民俗文化財となっています。

いいだ人形劇フェスタ(以下フェスタ)の前身は、1979(昭和54)年から1998(平成10)年まで続いた「人形劇カーニバル飯田」(以下カーニバル)です。国際児童年だった1979年に飯田市から公演依頼を受けたプロ劇団が「全国の人形劇の仲間と市民が交流する『人形劇のお祭り』を飯田でやりませんか」と提案したのがきっかけでした。その方式は、演じる側・観る側を問わず全員が有料のワッペン(参加証)を着用し、劇団は市内各地で「出前公演」を行う一方、地元側は宿泊場所の提供などでサポートする、というユニークなものでした。

いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ第1回人形劇カーニバル飯田(1979年)※

こうして始まったカーニバルは、あっという間に全国最大の人形劇イベントに成長。10年目の1988(昭和63)年には「世界人形劇フェスティバル」を同時開催し、飯田市は「人形劇のまち」として世界に名を広めることになりました。

  • いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ参加劇団によるパレード(1983年)※
  • いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へカーニバルの常連劇団を顕彰したパネル(1993年設置)が今も残る

その後、運営体制の見直しのため「カーニバル」は第20回で幕を閉じ、1999(平成11)年から「いいだ人形劇フェスタ」がスタートしました。ワッペン制度、ボランティアによる運営、会場分散方式など多くの仕組みが受け継がれた一方で、上演の形態が「プロ劇団による自主公演タイプ」「優れた作品に実行委員会が公演料を支払うタイプ」「プロ・アマ問わず誰でも参加できるタイプ」の3タイプに明確化されました。これによって、公演の質的向上と裾野拡大がともに図られることになりました。

  • いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へスペインの人形劇「トローサの巨人」(2018年)※
  • いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ軽妙な動きの江戸糸あやつり人形(2018年)※
  • いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ色彩豊かでユニークな公演も(2019年、人形劇団くりきんとん)※
  • いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ中国伝統の影絵芝居(2019年、劇団影法師)※

こうした長い歴史の中で、飯田市では飯田人形劇場の建設(1988年)、川本喜八郎人形美術館の建設(2007年)、NPO法人いいだ人形劇センターの設立(2013年)などが進められてきました。さらに、多くの学校で授業やサークル活動に人形劇を取り入れたり、市民がプロ顔負けの人形劇を上演したりと、人形劇は市民の間にさらに深く浸透しつつあります。

「私たちにとって飯田は特別」という“劇人”さんの言葉

2014(平成26)年からフェスタ実行委員長を務める原田雅弘さんは、若い頃に飯田青年会議所のメンバーだったことがきっかけで、30年以上にわたってカーニバルとフェスタに携わってきました。市内の老舗温泉旅館「砂払温泉」を経営するかたわら、フェスタの運営に尽力しています。
そんな原田さんに、今年のフェスタにかける思いを伺いました。

いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ原田雅弘さん

新型コロナで開催できなかった3年間はいかがでしたか?

原田さん
正直、苦しかったですね。とくに昨年は全国の大規模な人形劇イベントの中で中止したのはほぼ飯田だけだったので、今年はどれほどの劇団が参加してくれるのか不安でした。
コロナ下では、リモート会議を通じて全国の“劇人(人形劇人=演じ手)”さんたちの思いや意見をうかがうことができました。そこで多く出たのが「私たちにとって飯田は特別なんですよ」という言葉。全国から人形劇団が集まる日本最大の祭典だけに、地元市民である私たちだけでなく、劇人さんたちにとってもフェスタは大切な存在なんだと改めて気付かされました。

今回のフェスタの目標は?

原田さん
まずは、コロナ前と同じレベルのものをしっかりやりきることに尽きますね。劇団の参加数としてはコロナ前と遜色のない規模になったのでホッとしています。
ボランティアスタッフの不足やセントラルパークの暑さ対策、ワッペン価格の是非など、フェスタが抱える課題も少なくありませんが、4年ぶりの通常開催だけに、新鮮な気持ちでフェスタを見つめ直し、これからのあり方を考えていく大きなチャンスだと思っています。

今年フェスタデビューの地元劇団「ショウブズ」の稽古場へ

NPO法人いいだ人形劇センターは、人形劇をつくって上演したい地元市民を支援する「人形劇講座」を毎年開催しています。今年フェスタに初参加する劇団「ショウブズ」は、2022(令和4)年度の初心者向け講座に参加した受講生が結成しました。メンバーは駒ヶ根市在住の下沢晶(あき)さん、飯田市在住の岡本知子さんと息子の純輝さん、そして同市在住の長谷部昭一さんの4人です。
演目は日本の昔話を題材にした「くわずにょうぼう」で、劇団名は物語に登場する魔除けの植物「ショウブ」に由来します。登場する人形や小道具は、飯田文化会館にある工作室を使って手作りしました。
ショウブズは昨年10月、同センターが飯田人形劇場で開催した「人形劇定期公演」で初舞台を踏みました。今年5月の定期公演にも出演し、現在は8月のフェスタデビューに向けて稽古を重ねています。

いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へショウブズの皆さん(左から岡本純輝さん、岡本知子さん、下沢晶さん、長谷部昭一さん)

この日、飯田人形劇場で行われた稽古では、講座の講師で演出も担当した関島路乃(みちの)さん(飯田市在住、人形劇DALA所属)が指導しました。関島さんは通し稽古を見守ったのち、人形を掲げる高さや角度、小道具を出すタイミング、妖怪が走る所作など、改善点を細かくアドバイス。「後は集中力と瞬発力。本番にベストのコンディションを持っていきましょう」と励ましました。

  • いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ通し稽古の様子
  • いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ関島路乃さん(左)の演技指導
  • いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ米俵を人形にどう持たせるかを工夫
  • いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ工作室で小道具の修理

リーダーの下沢晶さんは昨年、募集チラシを見て講座に参加したそうで、自宅のある駒ヶ根市から通っています。「人前で何かを演じる経験がゼロだったので、最初の舞台は恥ずかしさと緊張でセリフが飛びそうになりました。でも稽古を重ねるうちに感情を前に出せるようになって楽しくなりました」と下沢さん。
岡本さん親子と長谷部さんは、センターがプロデュースした「巨大人形劇さんしょううお」や「人魚姫」など、市民参加の人形劇に参加経験があるとのこと。人形劇人としての飯田市民の層の厚さを感じさせます。

ショウブズの公演はフェスタ最終日の8月6日(日)10時から、飯田駅前の「丘の上結いスクエア」3階で行われます(ワッペン公演)。
下沢さんは「とにかく楽しく前向きに演じて、お客さんにパワーを届けたい。フェスタは初参加なので、観客としても楽しみたいですね」と話してくれました。

「人形劇フェスタの楽しみ方」を参考に、この夏は、飯田で思いっきり「人形劇のハシゴ」をしてみませんか?

人形劇フェスタの楽しみ方

  • ワッペンを購入しよう!
    いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ今年のフェスタワッペン

    フェスタでの公演を観劇する場合は、必ずその年のワッペン(700円)が必要です。ワッペンは観劇料ではなくフェスタを支える参加証という位置づけで、各公演会場や飯田文化会館、市内各公民館などで販売しています。
    フェスタ期間中や年間を通じて、市内の公共文化施設や特典協賛企業でワッペンを提示すれば、料金優遇などが受けられるおまけが付いています。

  • 有料公演を楽しもう!
    ワッペンがあればたくさんの「ワッペン公演」を原則自由に観劇できますが(一部、予約や整理券が必要な場合があります)、「有料公演」もフェスタの大きな魅力です。子どもだけでなく大人も楽しめるハイレベルな作品が多く、人形劇に馴染みのない人は“目からウロコ”体験を味わえることでしょう。
    チケットは当日券もありますが、文化会館窓口で事前購入するのがお薦めです。
  • 飯田のまちを味わおう!
    いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へからくりが楽しい時計塔ハミングパル
    いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ店舗のショーウィンドウにかわいい人形たちが登場(2022年)※

    フェスタ期間中に中央公園(飯田市中央通り1丁目)に設けられる「セントラルパーク」は、特設ステージでの公演に加えて地元のグルメや物産が購入できる出店コーナーが魅力です。近くの時計塔「ハミングパル」は飯田市のシンボル的存在で、正時になると人形やフェスタのマスコット「ぽぉ」が現れて愛嬌を振りまくカラクリが見どころです。
    「丘の上」と呼ばれる飯田市中心部は、「日本の道100選」に選ばれたりんご並木や、飯田大火(1947年)の教訓によって作られた直線的な裏道「裏界線」など、歩いて楽しいスポットがたくさんあります。
    また、各店舗ではショーウィンドウなどに人形を飾る「ウェルカム人形展」を行ってフェスタ参加者を歓迎しています。

  • 「飯田りんごん」で盛り上がろう!
    いいだ人形劇フェスタ 4年ぶりの通常開催へ劇人と市民がふれあう「わいわいパレード」※

    8月5日(土)は「第42回飯田まつり」として、中心市街地の主要商店街が歩行者天国になります。11時からは各所で縁日やパフォーマンスが行われ、17時30分からはフェスタ参加劇団が人形を掲げて市民と触れ合う「わいわいパレード」が、飯田駅前から中央通りにかけて行われます。
    18時30分からは市民の連による流し踊り「飯田りんごん」が繰り広げられ、打ち上げ花火も加わって飯田の夏は最高潮に達します。
    飯田りんごんについての詳細は飯田市のホームページをご覧ください。

取材・文・撮影:今井啓
取材協力:いいだ人形劇フェスタ実行委員会、NPO法人いいだ人形劇センター、週刊いいだ
写真提供(※印):いいだ人形劇フェスタ実行委員会

いいだ人形劇フェスタ2023
いいだ人形劇フェスタ2023

2023年8月3日(木)~6日(日)
飯田市および近隣町村の約100会場

特集

カテゴリー選択

カテゴリーを選択すると、次回以降このサイトを訪れた際に、トップページでは選択したカテゴリーのイベント情報が表示されるようになります。
選択を解除したい場合は「全て」を選択し直してください。