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長野県芸術監督団事業クロージングシンポジウム【前編】事業を振り返り、新たなステージへ

長野県芸術監督団事業クロージングシンポジウム【前編】事業を振り返り、新たなステージへ

令和3(2021)年12月、「長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム」が開かれました。演劇、音楽、美術、プロデュースの各分野の芸術監督の企画により、平成28(2016)年度から県内全域で展開されてきた事業の集大成として、各分野の芸術監督、阿部守一知事のほか、本事業に関わってきた多くの関係者が一堂に会し、その歩みを振り返りました。また、この6年間の様々な成果を今後に引き継ぎ、新たなステージに向けて、積み重ねたレガシーのバトンを次の走者にどのように繋げ、そして発展させていくのかを議論したシンポジウムとなりました。その様子をレポートします。

■長野県芸術監督団事業とは
長野県では平成27(2015)年度を「文化振興元年」と位置づけ、文化振興の取組を推進するため、平成28(2016)年4月に串田和美(くしだ かずよし)監督(演劇)、小林研一郎(こばやし けんいちろう)監督(音楽)、本江邦夫(もとえ くにお)監督(美術/故人)、津村卓(つむら たかし)監督(プロデュース)を迎えて「長野県芸術監督団」を一般財団法人長野県文化振興事業団に設置。令和3(2021)年度まで、各芸術監督の企画による事業を実施し、県内の文化事業全体の底上げと、文化芸術を担う人材の育成を図りました。
https://www.geijyutsukantokudan.jp/

長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム左から阿部守一知事、津村卓(プロデュース)、串田和美(演劇)、小林研一郎(音楽)の各芸術監督、石川利江シンビズム運営アドバイザー(美術)、近藤誠一(一財)長野県文化振興事業団理事長

セッションI「振り返り」

芸術監督団事業に関わってきた演者や作家、運営スタッフが、演劇、音楽、美術、プロデュースの分野ごとにこれまでの事業の成果や課題を振り返り、今後への期待などを語りました。

演劇

  • 長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム『月夜のファウスト』上演前に、飯綱町の実行委員会が人形劇オペラ『ファウスト』を公演
  • 長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム『月夜のファウスト』
■パネリスト
古木惣一郎(ふるき そういちろう)[飯綱町トランクシアター実行委員長]
伊藤茶色(いとう ちゃいろ)[犀の角]
武居卓(たけい たく)[TCアルプ]
■進行
山田敬佳(やまだ たかよし)[(一財)長野県文化振興事業団 芸術文化推進室]

演劇では、地域の皆さんが実行委員会を結成し、企画・運営を経験するトランクシアター・プロジェクトを実施、平成30(2018)年は『或いは、テネシーワルツ』を7地域、令和元(2019)年は『月夜のファウスト』を11地域で上演しました。
飯綱町の実行委員長として2公演を誘致した古木惣一郎さんは「信州は自然が豊かです。そこに芸術文化が入ることで感受性がより豊かになり、考える力・感じる力が開かれたように思います」と述べ、今後も地域での演劇に関する取組を継続する考えを語りました。
また『月夜のファウスト』、令和2(2020)年の『そよ風と魔女たちとマクベスと』にスタッフとして携わった伊藤茶色さんは「この経験を通して、作品にとことん向き合うスタッフが増えていく必要があるということを感じました」と語りました。すべての作品に出演した俳優・武居卓さんは「お客さんは目の前で起こっていることを自然と受け入れてご覧になっていた。日常の延長のままお芝居を観て、近所の人と笑い合っている。すごいことが起きていた。演劇の原点だと思いました」と地域を回っての気づきを口にしました。

長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム左から古木惣一郎さん、伊藤茶色さん、武居卓さん

音楽

  • 長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム須坂での出前授業の様子
  • 長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム「長野・スペシャルコンサート2021」での石井聡恵さん(中央)
■パネリスト
小林雅彦(こばやし まさひこ)[須坂市教育長]
石井聡恵(いしい さとえ)[長野・スペシャルコンサート2021出演者、長野県若手芸術家支援事業「next」登録アーティスト]
■進行
町田弘行(まちだ ひろゆき)[(一財)長野県文化振興事業団 芸術文化推進室]

音楽では、広く県民の皆さんと音楽の魅力を共有するとともに、県内で活動する演奏家の技術向上を目指し、茅野市、飯山市、須坂市、飯田市、長野市や伊那市でコンサートやセミナー、子どもたちの出前授業を実施しました。須坂市にコンサートを誘致した須坂市教育長・小林雅彦さんは「“コバケンとその仲間たちオーケストラ”にはプロとアマ、そして障がいのある奏者の方も一緒になって演奏している。この演奏会を聞いた時に、これまでのオーケストラで聴いたことのないような、胸に直に飛び込んでくる音の塊、得体の知れない痺れがありまして、こういうことがどうして生まれるのか知りたくて、お呼びしたいと思ったのです」と理由を語り、出前授業やコンサートで得た手応えをいくつも紹介しました。

また令和3(2021)年には、事業の締めくくりとして、県内のアマチュア演奏家を募り、仲間オケと共演する『長野スペシャル・コンサート2021』を開催。参加したオーボエ奏者・石井聡恵さんは「オーケストラの全体リハーサルのあと、楽器ごとの自主練習の時間がありました。仲間たちオケの方と、意見交換しながら、細かなところまで一緒に音楽を作っていった経験が心に残っています。それぞれの楽団に持ち帰って生かせると思いました」と喜びを表しました。

長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム左から小林雅彦さん、石井聡恵さん

美術

  • 長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム『シンビズム3』展より(撮影:大井川茂兵衛)
  • 長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム『シンビズム3』展より(撮影:大井川茂兵衛)
■パネリスト
大竹永明(おおたけ ながあき)[シンビズムワーキンググループ議長、東御市梅野記念絵画館館長]
小山利枝子(こやま りえこ)[画家]
■進行
伊藤羊子(いとう ようこ)[(一財)長野県文化振興事業団 芸術文化推進室]

美術は、キャリアも所属も違う学芸員たちが市町村を超えてネットワークを形成し、議論を通して高め合い、協働し、信州の美術シーンを紹介する『シンビズム』展を4度にわたって企画・実施しました。ワーキンググループ議長を務めた大竹永明さんは「本江さんは監督就任時、“監督というからにはチームがほしいなぁ”とおっしゃって、県内の学芸員が集まってワーキンググループが結成されました。本江さんには2つの狙いがあったように思います。ひとつは、豊かな長野県の美術を内外に知らしめるために信州にゆかりのある作家を紹介すること。もうひとつは、県内の学芸員が励まし合い、刺激し合うシステムを作ることです。我々は本江さんの遺志を継いで、この連携をぜひ続けていきたい」と力強く宣言しました。

第2回の作家選定委員、第4回の出展作家並びに出展作家・小松良和氏の遺族でもある小山利枝子さんは「学芸員さんは県内にちらばる星で、シンビズムという星座になって作家を照らし出してくれたように思います。多くの方々の努力で産声を上げたシンビズムという星座を、より大きな星雲に育てていってほしいと切にお願いします」と語りました。

長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム左から小山利枝子さん、大竹永明さん

プロデュース

  • 長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム果樹農園直売所シアター『破戒』より
  • 長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム果樹農園直売所シアター『破戒』より
■パネリスト
黒岩力也(くろいわ りきや)[わかち座、NOAホスト]
司白身(つかさ しろみ)[わかち座、NOAホスト]
石井幸一(いしい こういち)[鎌ヶ谷アルトギルド、NOA滞在アーティスト]
■進行
藤澤智徳(ふじさわ とものり)[(一財)長野県文化振興事業団 芸術文化推進室]

プロデュースでは、令和3(2021)年に『NAGANO ORGANIC AIR』(NOA)を実施。「ORGANIC=有機的」をキーワードに、アーティストとホストが地域で協働し、「アート」と「長野県」それぞれがもつ可能性や魅力を新たに掘り起こし、発展させていくアーティスト・イン・レジデンス事業です。小諸では劇団わかち座がホストになり、果樹農園直売所シアター『破戒』を制作・上演しました。ゲストの演出家・石井幸一さんは「『破戒』を演劇化していくプロセスで、ブルーベリー畑や直売所を使わせていただいて演劇を作っているはずが、劇場ができあがっていくという体験をしました」と語り、脚本を担当したわかち座・黒岩力也さんは「やったことがなかったので、とても大変でした。『破戒』は主人公が戒めを破るというところがあるのですが、石井さんからの刺激を受けて、そういう戒めをちょっとずつ破っていった感じです」と語りました。

また制作を担当したわかち座・司白身さんは「アーティストが力を発揮したり、市民が創作に夢中になるためには、安心して楽しめる場が必要。今後も地域とのつながりを持ちながら、創造的な環境を育む活動をしていきたい」と大きな刺激を受けたようです。

長野県芸術監督団事業 クロージングシンポジウム左から石井幸一さん、黒岩力也さん、司白身さん

後編のセッションIIでは、活動の報告を踏まえ、阿部知事や芸術監督の皆さんとともに、これからの進むべき未来の形について語り合います。
→「長野県芸術監督団事業クロージングシンポジウム【後編】文化芸術のバトンを、次の走者へ」に続く

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