“好き”でつながるまちのクラブ活動 多様な学びを地域で支える「エンジョイスクエア」
スポーツや文化芸術、自然体験、ものづくりなど、さまざまな活動を地域の大人や企業が支える「エンジョイスクエア」。飯田市・下伊那郡の小中学生が学校や学年の枠を越え、興味のあるクラブに自由に参加できる「まちのクラブ活動」です。
2026年には登録数が108クラブにまで広がり、陶芸、料理、登山、eスポーツ、国際交流、動画制作、フラメンコなど、学校では触れる機会の少ない分野にも、子どもたちの新たな学びや体験の場が生まれています。
このプロジェクトを運営する一般社団法人未来地図代表理事の代田昭久さんに、活動を通して見えてきた子どもたちの可能性や、地域で子どもを支える仕組み、今後の展望を聞きました。

その分野を愛する大人やプロが顧問に
エンジョイスクエアでは、その分野に熱中する地域の大人や専門家、企業がクラブの顧問となり、子どもたちに多様な体験の機会を提供しています。子どもたちは自分の興味に合わせて活動を選び、参加費を支払って体験します。
活動の原点は、代田さんが飯田市教育長を務めていた2020年にさかのぼります。少子化が進む中、特に山間地域の中学校では、生徒数の減少によって希望する部活動を選べない状況が生まれていました。そこで飯田市・下伊那郡の14市町村が協力し、「飯伊地区の部活動を考える会」を発足。自治体の枠を越えた広域連携により、子どもたちの活動の選択肢をどう広げるか模索を始めました。
時期を前後して、全国では中学校部活動の「地域移行」が急速に進みます。しかし代田さんは、「移行」という言葉だけが先行し、学校が担ってきた部活動を地域へ引き渡すこと自体が目的になってはいけないと考えています。本来目指すべきは「子どもたちにとって、これまで以上に豊かな文化芸術・スポーツ活動を地域に生み出す」こと。その考えを形にしたのがエンジョイスクエアです。
一般社団法人未来地図代表理事・代田昭久さん飯田市出身の代田さんは、大学卒業後、リクルートに就職し、教育ビジネスやスポーツコンテンツの開発に携わりました。その後、東京都杉並区立和田中学校校長、佐賀県武雄市教育監などを経て故郷へ戻り、2016(平成28)年、飯田市教育長に就任。企業と教育、都市と地方、それぞれの現場での経験を生かしながら、新たな活動の在り方を構想してきました。教育長退任後の2022年、一般社団法人未来地図を立ち上げ、エンジョイスクエアの運営を牽引しています。
代田さん
「このアイデアが浮かんだとき、最初に声をかけたのは高校時代の同級生でした。『人生も後半戦。これまで培ってきた経験や力を、今度は地域の子どもたちのために生かしてくれないか』。そんな思いを伝えながら仲間を増やし、それぞれの得意分野を生かしたクラブとして形にしてきました」
例えば、昆虫好きの同級生が立ち上げた「クワガタ人生部」は、趣味で72ミリの大型クワガタを育てていた主催者の熱い思いから始まり、今では人気クラブの一つに。下伊那農業高校の教員や生徒が協力する「メロンパンクラブ」も、定員20人に対して約60人がキャンセル待ちになるほど人気を集めています。
クワガタ人生部(写真提供:エンジョイスクエア)
メロンパンクラブ(写真提供:エンジョイスクエア)
代田さん
「課題の一つは、人気の講座に申し込みが集中してしまうことです。料理やプログラミングは人気が高く、多くのキャンセル待ちが出る一方で、参加者が集まりにくい種目の中にも、魅力的な講座がたくさんあります。その魅力をどう伝えていくか。そして、子どもたちが、苦手だと思っていることにも思い切って挑戦できる。そんな環境をつくっていくことも大切だと感じています」
参加人数や開催頻度はクラブごとに設定し、主催者が無理なく受け入れられる範囲で活動しています。少人数の方が丁寧に関われる良さがある一方、子どもたちの「やってみたい」をできるだけ多く体験につなげるため、講座や受け入れ機会を広げることも今後の課題です。
学校では目立たない「好き」が宝物になる
エンジョイスクエアの大きな特徴は、スポーツの技能や学校の成績だけでは捉えきれない、一人ひとりの興味や知識が主役になることです。
例えば「クワガタ人生部」で、クラブの顧問が「自分の宝物を持ってきて」と呼びかけたところ、子どもたちはゲンゴロウやカナヘビなど、大切にしている生き物を持って集まり、自慢大会になったといいます。

代田さん
「昆虫や動物が好きな子どもたちがよく話すのが、『学校に持って行ったら、先生に怒られた』『持ち帰ってと友だちに言われた』という経験です。もちろん、学校には安全面や衛生面など、さまざまな事情があります。でも、地域のクラブだからこそ、同じものが好きな仲間と、とことん夢中になれる。持ってきた生き物を囲んで語り合ったり、豊富な知識で周りを驚かせたり。その子の『好き』が強みになり、ヒーローになれるんです」
居住地域や学校を基盤とする「地域コミュニティ」に対し、代田さんはこうした集まりを「テーマコミュニティ」と表現します。「昆虫が好き」「車が好き」など、共通の関心によってつながる場。学校の中では居場所を見つけにくい子どもも、同じ「好き」を持つ仲間の中では安心して活動に加わることができます。
代田さん
「教育的な効果がどうこうという以前に、子どもたちは単純に『楽しい』んです。自分で選んだ活動に参加し、友達や大人と交流する。感受性が豊かな小中学生の時期だからこそ『楽しそうなことに積極的に挑戦してみる』習慣がつくことが大切だと思っています」
クルマで語ろうぜ!・クラブ(写真提供:エンジョイスクエア)
ふらめんこ体験クラブ(写真提供:エンジョイスクエア)
できる限り各クラブへ足を運び、子どもたちと一緒に活動をしているという代田さん。フラメンコクラブでは、間近で見る踊りの迫力やカスタネットの技術の奥深さを実感。国際交流クラブではベトナム出身の講師とフォーを作り、現地では朝食として親しまれていることを知るなど、自身も新しい発見を楽しんでいます。子どもだけでなく、大人にとっても世界が広がる場になっているのです。
登録団体には、新たに立ち上げたクラブだけでなく、地域で以前から活動してきたスポーツ団体や文化クラブも加入しています。ただし、希望すればどの団体でも登録できるわけではありません。事務局では必ず面談を行い、プロジェクトの理念を共有できるかを確認。数を増やすことだけを目的とせず、子どもの「好き」を尊重し、ともに育てていける団体と歩むことを大切にしています。
自ら「やりたい」を形にする子も
活動を続ける中で、新たな動きも生まれています。用意されたクラブに参加するだけでなく、子ども自身の発案からクラブが生まれた例もあります。
その一つが「文房具コンシェルジェ」。文房具が好きな中学生の「身近に文房具について語り合える友達がいない」という思いから始まりました。
初回は、集まったメンバーがお気に入りの筆記用具を持ち寄り、書きやすさや握りやすさなどについて語り合いました。その後も、シャープペンや革のペンケース作り、万年筆メーカーによる体験などを実現。子どもたちのアイデアを起点に活動が広がっています。
代田さんも参加して一緒に作った革のペンケースと木軸シャープペンシル代田さん
「子どもが『木軸のシャープペンを作りたい』と思えば、まず地域の文具店に相談してみる。そこから人を紹介してもらい、何人かたどっていけば、実現できる大人に出会えるんです。自分の発案で人が集まり、やりたかったことが実現する経験は、大きな自信になります」
また「クルマで語ろうぜ!・クラブ」も、車が大好きな中学生の思いから生まれたクラブです。ミニカーやパーツなど自慢の宝物を持ち寄って語り合い、自動車イベントへの参加や工場見学などへ活動を広げてきました。企画した生徒はその後、工業高校へ進学し、自動車について専門的に学ぶ道を選んだといいます。
「好き」を共有する体験が、進路や将来の職業を考えるきっかけにもなる。代田さんは、そんな子どもたちの姿にエンジョイスクエアの可能性を感じています。
代田さん
「学校の探究授業では、地域課題の解決などの『テーマ探究』が多く行われています。一方で、『もっと知りたい』という、子どもたち一人ひとりの内発的な動機から始まる『MY探究』も大切です。何かに熱中する大人と出会い、その情熱に触れることで、子どもたちにも熱が伝わっていく。学校だけでは見つけにくい才能を、地域との出会いによって引き出せると考えています」
自ら進む道を選ぶ力は、進路を決める年齢になって突然身につくものではありません。幼い頃からさまざまな人や仕事に触れ、自分の心が動くものを見つける。その積み重ねが、将来を選ぶ土台になっていきます。
無償の善意に頼らず、持続可能な仕組みを
エンジョイスクエアでは、クラブの運営を「有償ボランティア」と位置付けていることも特徴です。その背景には、これまで学校の教員が、部活動を無償に近い形で支えてきたことへの問題意識があります。
代田さん
「学校教育はすべての子どもに保障されるべきですが、希望して参加する社会教育には『受益者負担』の考え方も必要です。誰かの無理や善意だけで続けることはできません。運営する人が疲弊しない仕組みにしなければ、活動は続かないと思っています」
発足からの3年間は、公益財団法人スポーツ安全協会からの助成を受け、クラブの基盤づくりや運営者への支援を行ってきました。助成期間を終えた2026年からは企業協賛を得て、地域の力で支える体制へ移行。代田さん自ら企業へ足を運び、14社から約500万円の協賛金を集めました。その資金を、活動を広く知ってもらうための冊子やウェブサイトの制作、子どもたちの保険をはじめ、さまざまな活動を支える費用に充てています。
まちのクラブ・エンジョイスクエア会議(写真提供:エンジョイスクエア)
(写真提供:エンジョイスクエア)
代田さん
「協賛は企業名を知ってもらう機会にもなりますが、それ以上に皆さんが考えているのは、少子化が進む中で、この地域をどう持続させていくかということ。地域の将来に危機感を抱き、活動の趣旨に賛同してくださる思いの強い企業が集まってくれました」
少子化や若者の地域外流出が進む中、人材確保や地域社会の持続は企業にとっても切実な課題です。そこで協賛企業にも講座を開いてもらい、子どもたちが多様な地域産業や働く大人と触れ合える機会をつくっています。
小中学生の頃からこうした接点を重ね、地域での働き方を知ってもらうことが、いつか「この地域で働く」という選択につながると期待されています。
学校と地域がそれぞれの力を生かす
リクルートで企業の人材採用や教育ビジネスに携わり、その後、民間人校長や教育行政の立場から学校現場を見てきた代田さん。そこで感じたのは、子どもたちが実際の仕事や社会に触れる機会が少ないまま、進学先や職業を選ばなければならないという課題でした。
また、社会の変化に伴い、学校が担う役割も広がっています。教科指導だけでなく、金融や情報モラル、キャリア教育といった専門的な教育まで求められる中、すべてを学校だけで抱え込むのではなく、地域の専門家の力を借りてともに育てていく視点が不可欠だと代田さんは捉えています。
代田さん
「学校教育で基礎学力を身につけることは、もちろん大切です。ただ、AI時代には、知識を身につけることに加えて、『もっと知りたい』という、学びへの動機を育むことが、これまで以上に重要になります。その原点になるのは、五感を伴った本物の体験です。心が動く体験から、自分の夢中になれるものにつながっていく。そんな好奇心の連鎖を大切にしていきたいですね」
職人の技を間近で見る、土や生き物に触れる、異文化を知る、好きなものについて語り合う。そうした体験から湧き上がる「もっと知りたい」「やってみたい」という衝動が、自ら学び探究する原動力となります。

代田さんが思い描くのは、かつての寺子屋のように、地域のさまざまな大人がそれぞれの知恵や得意分野を持ち寄り、子どもたちの学びを支える環境です。子どもたちの学びが豊かになれば、子どもたちが育ち、やがて地域も豊かになっていく。お金については金融の専門家、ものづくりなら現場の技術者、文化芸術ならその道を追究してきた人が伝える。地域全体を学びの場とすることで、子どもたちは学校だけでは得られない本物の経験や言葉に触れることができます。
代田さん
「学校と地域がそれぞれの知識や経験を持ち寄り、対話することも大切です。互いの力を生かしながら、子どもたちに良い影響を生み出していけたらと考えています」
子どもの根を育てる「豊かな土壌」を地域に
昨年度、エンジョイスクエアの活動には延べ約2000人の子どもたちが参加しました。ただし、中には5回、10回と繰り返し参加する子どももいるため、対象となる児童生徒全体で見ると、実際に参加した割合はまだ1割に届かないと代田さんは分析します。
将来的には、地域の3~4割の子どもたちがエンジョイスクエアで体験をし、その中から興味を持った分野を継続して探究する子どもたちが育つ。そんな環境を目指しています。
これまでの3年間は、参加団体やクラブを増やし、活動の裾野を広げることに力を注いできました。108クラブまで広がった今、次のテーマは数だけを追うのではなく、活動の理念を共有しながら、クラブの質や継続性を高めていくことです。
その先に描かれるのは、子どもだけでなく、地域そのものが育っていく姿。代田さんは、教育者・東井義雄が説いた「村を育てる学力」の考えを引きながら、こう話します。
代田さん
「草木が地中に根を張り、やがて枝を伸ばして花を咲かせるように、子どもたちが力強く育つには、まず『根っこ』を育むことが大切です。その根っこを支える土が地域。互いを認め合い、失敗や違いを受け入れ、子どもの才能を見つけようとする豊かな土壌であれば、それぞれの根を深く伸ばしていける。そんな地域で育った子どもたちが、いつか『このまちに生まれてよかった』『この地域に戻って暮らしたい』と思ってくれるかもしれない。そんな未来を夢見て、挑戦を続けています」

一人ひとりの「好き」を受け止める大人がいて、夢中になれる仲間や場所がある。そこで重ねる出会いや体験が子どもたちの根を育て、やがて地域の未来にもつながっていく。エンジョイスクエアは、地域が力を合わせて子どもを育てる新たな学びのかたちを描き始めています。
取材・文:平松優子
撮影:中島拓也
クワガタ人生部(写真提供:エンジョイスクエア)
メロンパンクラブ(写真提供:エンジョイスクエア)
クルマで語ろうぜ!・クラブ(写真提供:エンジョイスクエア)
ふらめんこ体験クラブ(写真提供:エンジョイスクエア)
まちのクラブ・エンジョイスクエア会議(写真提供:エンジョイスクエア)
(写真提供:エンジョイスクエア)





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