CULTURE.NAGANO長野県文化芸術情報発信サイト

特集

佐久市コスモホール~開館30周年と被災からの復活を喜び盛り上げる再スタートに向けて

佐久市コスモホール~開館30周年と被災からの復活を喜び盛り上げる再スタートに向けて

2019年10月の台風19号は、長野県内、特に千曲川流域の広い範囲に大きな被害を残しました。佐久市でも家屋の倒壊や浸水など甚大な被害があり、被災した佐久市コスモホールは現在も長期休館中です。現状は、災害復旧工事の予定と新型コロナウイルスの状況をにらみつつ、なんとか2020年内に工事開始のメドをつけるべく作業が進められています。しかしながら、コスモホールでは被災・ホール休館という苦境に耐えながら、「コスモホール『佐久第九』演奏会」「こころのミュージカル」と二つの市民参加による自主事業を成功させました。今回の特集では、佐久市コスモホール館長兼芸術監督の奥村達夫さんに、災害後の文化活動の様子と、活動を通して改めて感じられた文化芸術活動の意味や文化施設の重要性について伺いました。

「ホールというのは人が集まる状態が日常。休館日や公演がない日は人はいませんが、そうではない理由でにぎわいのある日常が遮断されてしまった、途絶えてしまったという事実を僕には本当に受け止めることができませんでした。寂しいというか、虚しいというか、冷ややかというか」 開口一番、奥村さんはそう語り始めました。

前述したように、台風19号は佐久市にも甚大な被害をもたらしました。コスモホールがある下小田切地区は周辺地域よりも土地が低いため、流れ込んだ水によって一帯が冠水。ホール地下階の機械室が水没したため、電気系統を損傷する事態になりました。外観に変化はありませんが、今も、仮設電源で事務所だけが稼働しているという状態が続いています。

佐久コスモホール台風19号で水につかった駐車場

被災したなかでの公演実現が、市民参加者を一つにした

奥村さんは、学生時代から老舗劇団に出入りし、演出部として活動してきました。ミュージカルの劇作・演出、大型イベントや国際フェスティバルなどのプログラムディレクターや芸術監督、市民ミュージカルの指導・演出などで活躍された後、佐久市コスモホール、佐久市鎌倉彫記念館、佐久市交流文化館浅科を運営する一般財団法人佐久市文化事業団の館長兼芸術監督に就任して、今年で7年目を迎えます。

「僕の着任前は年間で自主事業が5、6本程度行われていました。同じ予算で、今は大規模なものから細々したものまで50本前後を行ない、発信も強化しています。そうした活動のなかでよくわかったのは、お客様もイベント業者さんも稼働率の高いところに集まってくるということです。以前は目も向けてくれなかったプロモーターさんが通年で3~4回ここを借りてくださっている。発表会を予定している市民の皆さんもここを使ってみたいと思ってくださる。そうやってまたにぎわう。相乗効果なんですね。
またジャンルがいろいろあると間口も広がって、さまざまな人たちが使いやすくなります。ホールの建物がオーラを出すわけではありませんが、7年間でどんどん活気に満ちていくのを感じていました。
だからこそ、台風の後から続いているこの殺風景な状況が、観客やスタッフとしてホールが身近にあった僕にいろんなことを考えさせてくれる機会になっています」

奥村さんは、ホールが被災した状況では中止もやむを得ないと思われていた二つの企画を実現させました。一つは2019年12月1日に行われた第19回コスモホール『佐久第九』演奏会。もう一つは、2020年2月11日に小諸市文化センター、同年2月15日に長野市芸術館で公演した、こころのミュージカル2019『心の中の光となって~人間物語 丸岡秀子の半生~』です。どちらも、市民参加の取り組みです。

佐久コスモホール佐久市コスモホール館長兼芸術監督・奥村達夫さん

『佐久第九』演奏会はホールの10周年を記念して始まった企画です。市民合唱団90名、佐久室内オーケストラ70名という規模の大きさのため、日程を変えず、佐久市立佐久平浅間小学校体育館で開催されました。

「市民の皆さんには、自分たちの成果を発表する場ですから素敵な会場で歌いたいという想いもありました。でも長野県の東部、上田・佐久地方にはこの規模に見合ったホールが少なく、タイミング良く空いているところも見つからなかった。参加者それぞれの想いの違いも浮き彫りにはなりましたが、被災された方も参加されていて、”このようなときだからこそ、勇気と希望の『第九』を! “と『佐久第九』演奏会は一つになれたんです」

佐久コスモホールコスモホール『佐久第九』演奏会

地域の先人をモデルに描いた「こころのミュージカル」は、100名以上に及ぶ老若男女の市民が演じるのに加え、公演にかかわるさまざまな仕事を市民スタッフが役割分担してつくり上げる企画です。11年目を迎え、自分たちの活動を改めて見直そうと、本来であれば2019年11月9・10日のコスモホール公演を終えた後、2020年2月に長野市芸術館で初めての市外公演を行う予定でした。

「長野公演の予定がなければ中止になっていたかもしれません。11月の公演を断念したときは、大変な災害のときに文化や演劇で盛り上がるのはどうだろうという声もあり、長野公演もどうなるかわからない状況でした。ただ、当初からの長野公演を成功させよう、11月10日を稽古場公演としてやり遂げようと舵を切ったときに、小諸市文化センターが2月に使えるかもしれないとお話をいただいたのは奇跡でしたね。何かがみんなを突き動かしたのでしょう、実働部隊である製作委員会以上に周りの人たちがとても協力的に動いてくれて。延期にともなって増えた稽古も仕事や学業を工夫しながら両立してくれて、予算を切り詰めたり、建設会社の社長さんが運搬用のトラックの運転を買って出てくれたり、いい意味でマンパワーが発揮されたんです」

小諸、長野ではそれぞれ800人を超えるお客さんに見てもらえたそうです。

  • 佐久コスモホールこころのミュージカル2019『心の中の光となって』
  • 佐久コスモホールこころのミュージカル2019『心の中の光となって』

当たり前に使っていた場所が使えなくなったことで、気づいたことがある

「どちらの企画も市民の皆さんによる実行委員会、製作委員会で十分に進められるだけのノウハウと体制はあります。でもそれも、コスモホールというホームグラウンドがあってこそ。この当たり前にあった場所がなくなったわけです。改めて会場も稽古する場所も探さないといけない、ミーティングも毎回違う場所で行われました。会場が決まっても、図面を見ればわかるようなプロではないから、使ってみないとわからない。不安はたくさんあったはずです。でもどちらも結果は大感動でした。
それと同時に、今まで当たり前に使ってきたホールが使えないことがこんなに不自由なのかと思い知らされました。このことは関係する市民の皆さんにも伝わったと思います」

佐久コスモホール

この災害を通して、もう一つ、奥村さんには発見があったそうです。休館に入り、ホールを利用する予定だった主催者の皆さんに連絡したり、予約のために連絡してくる方々に事情を説明したりするなかで、コスモホールを使ってくれているさまざまな市民の存在を実感したのだと言います。

「同じような顔ぶれの方々が使ってくださっているのかと思っていましたが、2、3年に1回といったペースで使われている方がものすごくいらっしゃった。その方々もここが使えないことで大変苦労されています。たとえば本番までの稽古もここのリハーサル室を使っていただいているんですね。みんなで安心して大声が出せる、広い空間で自由に動き回れる場所は少ない。そういうことも含めて、ダメージは大きいんです」

被災を経験として、新たな目標で事業を組み立てる

佐久市コスモホールは大ホールの吊り天井を改修するため、もともと2020年秋から休館する予定でした。そこへ、台風19号の被災により全館が使用不能となりました。修繕にかかる費用が膨らむため、佐久市の負担だけでなく、国からの補助に頼らざるを得ない状況にあります。そこへ持ってきての新型コロナウイルス感染症の感染拡大があり、工事のスケジュールにも影響が出てきました。

「阪神淡路大震災以降言われることですが、ホール職員は被災地域にボランティアとして手伝いに出る代わりに、被災された人たちにどれだけ寄り添えるのか、文化芸術を通して皆さんをどうしたら元気づけられるのかを考え、動くべきだと思うのです。しかし今回はその僕らも被災してしまった。現状では年内の再開は厳しく、おそらく年明けになるでしょう。僕が恐れていることは、このまま使えない状態が続くと、借りなくてもいいや、ほかを借りればいいやというふうに利用を予定していた方のマインドがシフトしてしまうことです。相乗効果の話をしましたが、その逆のことも起こり得るので」

佐久コスモホール『学校にコスモホールがやってきた』
    • 佐久コスモホール『キッズ・サーキット in 佐久2019』
    • 佐久コスモホール『キッズ・サーキット in 佐久2019』子ども創作活動プロジェクト

しかし、奥村さんは不安を口にしながらも、表情に暗さはありません。これまで「『佐久第九』演奏会」「こころのミュージカル」を成功させてきた経験が、この苦境のなかでも前向きな姿勢につながっているのだと思います。

「たしかに大きいことはできないけれど、2020年度はかゆいところに手が届くというような企画を考えています。今まで手が回らずできていなかった障がいのある方や文化芸術に触れにくい環境にあった方を対象にしたインクルーシブな取り組みにも力を入れていきます」

コロナ禍ゆえに検討していたプログラムを何度も何度も見直ししなければならない歯がゆさもありますが、月末金曜の『ランチタイムコンサート』、第一線で活躍するアーティストのアウトリーチ『学校にコスモホールがやってきた』、体験講座『パフォーミング・アーツ・スタジオ』、佐久市文化事業団直轄創造集団COSMO☆アカデミア&アカデミー生の演劇公演、有名劇団や人形劇団などが大集結する『キッズ・サーキット in 佐久』などの企画を実現してきた奥村さんは次なる一手を日々考えています。

「今までホールで構えていたので外に飛び出して、再開したときにはよろしくね ! というデモンストレーションになる企画をたくさんやりたいですね。ありがたいことに市長(文化事業団理事長)も2021年度を単に開館30周年ではなく、復活記念として盛り上げようとおっしゃってくれています。いざオープンというときに、市民の皆さんが期待と喜びを抱いてくださるような環境づくりを目指します。今回被災したことを経験として生かしていきたいですね」。

奥村さんの想いは、芸術文化を特定の人だけのものではなく、世の中のあらゆる人のためのものへと変えていくことです。地域にある公立ホールであっても限られた予算や人材を最大限に取り込み「工夫すればこんなにもいろんなことができるんだ」と実践していくことです。

この記事で取り上げたコスモホールはもちろん、同じく台風19号で被災からの復旧を掲げるあんずホールこと更埴文化会館、そして平常運転ができる日を待ちわびる県内のあらゆる文化施設は、それぞれが文化芸術の明かりを灯し、再び世の中を照らす存在になることを目指して頑張っています。

佐久コスモホール

新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のため延期・中止になった企画
【中止】2月28日(金)ランチタイムコンサート
【中止】3月7日(土)佐久市民の日4館協働事業『おとなの部活』
【中止】3月27日(金)ランチタイムコンサート
【延期】4月18日(土)・19日(日)第7回COSMO☆アカデミア&COSMO★アカデミー合同公演
【5月に可否を判断】7月31日(金)~8月2日(日)キッズ・サーキット in 佐久2020

詳細、最新情報につきましては、佐久市コスモホール公式サイトをご確認ください。

取材・文:いまいこういち(サイト・ディレクター)
インタビュー撮影:大木文彦

佐久市コスモホール

佐久市コスモホール
佐久市下小田切124-1

特集

カテゴリー選択

カテゴリーを選択すると、次回以降このサイトを訪れた際に、トップページでは選択したカテゴリーのイベント情報が表示されるようになります。
選択を解除したい場合は「全て」を選択し直してください。