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大作映画から配信動画まで ロケ誘致を通じて長野県への誘客と魅力発信を図る「信州フィルムコミッションネットワーク」

大作映画から配信動画まで ロケ誘致を通じて長野県への誘客と魅力発信を図る「信州フィルムコミッションネットワーク」

劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』、『キングダム 大将軍の帰還』、実写『秒速5センチメートル』、『悪は存在しない』などなど…ここ数年で劇場公開されたこれらの映画には、ある共通点があります。それは、長野県でロケーション撮影された、または作品の舞台になっていること。
こうした作品の県内でのロケなどの実現を支援協力してきたのが「信州フィルムコミッションネットワーク(以下、SFN)」です。果たしてそれはどのような組織なのか。3人の関係者に聞きました。

ロケ誘致を通じて地域の経済・観光・文化振興に寄与する「フィルムコミッション」

そもそもフィルムコミッション(以下、FC)とは、制作会社と地域をつなぐ窓口として、映画、テレビドラマ、CM、プロモーションビデオ、配信動画など、あらゆるロケーション撮影を誘致し、撮影をスムーズに進める非営利公的機関のこと。ほとんどが自治体に組織されており、地域の経済・観光・文化振興に大きな効果を上げています。

長野県では、1991(平成3)年という全国でもかなり早い段階に「信州上田フィルムコミッション」が上田市で設立されたのを皮切りに、現在では松本市、長野市、諏訪圏(諏訪市を含む6市町村)など7つのFCが活動。SFNは、これらのFCだけでなく、県内各地域で制作会社との窓口になっている市町村や観光協会などをつなぐネットワークとして2012(平成24)年に立ち上がり、現在は62の団体が加盟しています。

SFNは、長野県観光スポーツ部観光誘客課の事業として、一般社団法人長野県観光機構に事務局を委託するかたちで運営されています。今回は、同課の佐々木和樹さん、事務局の井上さと美さん、そしてアドバイザーであり、過去に信州上田フィルムコミッション、現在は上田市の映画館、上田映劇にもかかわっている原悟さんにお話をうかがいました。

佐々木さん
観光誘客課では、予算の措置や事業構築といった根本の部分をつくるほか、県有施設の使用調整の窓口にもなっています。観光誘客課としては、やはり撮影のロケ地になることでスタッフさんや俳優さんが県内に来られて、宿泊や飲食にお金が落ちることと、映画が公開されたあとにロケ地の「聖地巡礼」というかたちで、ファンの方などが二次的に県内に訪れるという、2つの効果を重視しています。

井上さん
事務局は特に(長野県のどこかにロケ地がないか)という全県の問い合わせ窓口を担っています。そうしたときにロケハンや撮影支援などを各地域と協力しながら行います。
作品によりますが映画だと100人前後のスタッフさんが1週間から長くて数カ月滞在することもあり、その間の宿泊場所やロケ弁の紹介、エキストラ募集の協力など、地域と制作会社をつなぐのが仕事です。そのほか、連絡会議や勉強会の運営、SNSや県内施設でロケにかかわった作品のプロモーションも行っています。

写真:信州フィルムコミッションネットワーク井上さと美さん(左)と佐々木和樹さん

信州フィルムコミッションネットワークが可能にした、県単位のロケ誘致

そして「2人の相談役」という原さんは、SFNの立ち上げにかかわった人物でもあります。どのような背景があってSFNが始まったのか、次のように説明してくれました。

原さん
県単位で撮影の誘致を行う仕組みがなかった当時は、県有施設での撮影が難しかったという課題を抱えていたんです。端的に言うと、県立高校で撮影ができず、高校生が主人公になるような青春映画などが、長野県では長らく撮影されてこなかったんですね。
もうひとつは、県外から例えば上田市に来る人にとっては、「上田市に」というより「長野県に」遊びに来るわけで、どの市町村かはどうでもいい。だったら撮影誘致も、「長野県に来てください」という話ができたほうがいいですよね。
こうした課題解決のために県に加わってもらったんです。結果的に、かなりのスピード感で現在の母体となる組織ができあがりました。

  • 写真:信州フィルムコミッションネットワーク松本深志高校
  • 写真:信州フィルムコミッションネットワーク長野県庁

さらに、SFNのように県から市町村に働きかけるのではなく、市町村が先に立ち上がり県があとから加わる経緯の場合、組織をフラットに運営できるという、全国的に見ても顕著なメリットがあると、原さんは続けます。

原さん
以前は、ロケができる/できないの話も各市町村だけで完結してしまったり、制作会社からの問い合わせがあっても一斉メールを投げるだけで制作者たちからも「何のリアクションもない」と不評だったりしたんです。
けれども県が介入したことで、「うちの市町村になくても、別のところならこういうものがある」と、それぞれが連絡・提案しあうようになり、以前より案件を県外に出さないように圧倒的に改善できていると思います。

井上さん
原さんから最初に「一斉メールはやめてね」って言われたんです(笑)。なるべく直接連絡して、なんなら会いに行くようにして。やっぱりメールだけのやり取りだと、不信感というか、「やらされている」感じになっちゃうので。

写真:信州フィルムコミッションネットワーク原悟さん

あの大作映画も…信州フィルムコミッションネットワークのロケ実績

そうした地道な努力の甲斐あってか、SFNには、映画だけでなくCMやPV、配信ドラマも含めると、事務局宛だけで年間約130件の問い合わせが寄せられ、また各地域に直接入る問い合わせ件数も含めるとかなりの数になるとのこと。
「人々の生活があって、その向こうにアルプスが見えて、というロケーションは、信州ならでは。そういう場所を求めていると感じます」(井上さん)、「以前は県内77市町村のうち、上田、松本、諏訪周辺という一部だけでほとんどの撮影が済まされていましたが、それ以外の市町村でのロケも増えています」(原さん)というように、ロケ地としての長野県の魅力が認知されてきていると言えるでしょう。
こうして実績を積み上げていくなかで、これまでにかかわった作品のなかから、特に印象的だったものを、3人に挙げてもらいました。

原さん
最近の作品だと、テレビ朝日系列の金曜ナイトドラマ『探偵さん、リュック開いてますよ』ですね。この作品の舞台は上田市の別所温泉がモチーフになっているんですが、ドラマの監督・脚本の沖田修一さんは、2016(平成28)年に上田で開催した映画制作ワークショップ「こども映画教室@信州上田2016」の特別講師としてお招きしたり、上田映劇が再オープンした2017(平成29)年以降、沖田さんの監督作品を毎年のように上映してトークをしてもらったり、そういうご縁のたびに別所温泉に泊まってもらっているんです。そんななかで、「温泉の話を書きたい」ということになり、それが実現した。うれしいですよね。作品と地域の出合い方が、すごく理想的だと思います。

佐々木さん
私は、劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』のプロモーションです。ビックコンテンツということもあり、プロモーションの検討や調整と大変なことが多々あったのですが、やっぱり、ファンのみなさんの愛や思い入れが本当にすごいなと心から感じました。県庁1階県民ホールに置かれたファンノートには、来県者の本当にあたたかいコメントがたくさん書かれていましたし、こうやって作品を追いかけて、いろいろなところをめぐっているんだなと、実感できました。

井上さん
ひとつひとつに思い入れがありますが、この仕事を担当して初めてのロケが『キングダム』の3作品(『キングダム2 遥かなる大地へ』『キングダム 運命の炎』『キングダム 大将軍の帰還』)だったんです。何もわからないまま、すべてを学ばせていただいた現場でした。東御市のある企業さんの土地で撮影させていただいたんですが、大作なのでスタッフの数も300人ぐらいいて、約3カ月滞在する間のロケ弁を東御市や上田市の業者さんにお願いしたり……。
いろいろと大変なこともあったんですが、ロケがすべて終わった後に、地域の観光協会や市の方が「こんなに大きな撮影を受け入れるのは初めてだったが、おかげさまで無事に受入ができた」と慰労会を開いてくださったのが、一番の思い出です。

  • 写真:信州フィルムコミッションネットワークドラマロケ地となった上田市別所温泉のますや旅館
  • 写真:信州フィルムコミッションネットワーク劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』長野県庁での展示
  • 写真:信州フィルムコミッションネットワーク東御市で行われた『キングダム』特撮の現場
  • 写真:信州フィルムコミッションネットワーク木曽路・奈良井宿(塩尻市)

絶対に欠かせない地域の理解・協力と、培った信頼関係

ところでウェブマガジン「CINEMA STYLE」の記事によると、2023年の人口10万人あたりのスクリーン数は、全国平均で2.91であるのに対し、長野県は約3.54と全国で8番目に多く、「映画好きの土地柄」であり映画への関心は比較的高いと想像できます。
ただ、井上さんの先ほどの発言からうかがえるように、ロケにはもちろん各地域の具体的な理解や協力が不可欠。地域からはどんな反応があるか尋ねると、井上さんはこう答えてくれました。

井上さん
この間、木曽平沢で台湾との合作映画の撮影があったんですが、撮影にあたって区長さんにご挨拶にうかがったとき、第一声が「この平沢を見つけてくれてうれしい」だったんです。
隣にある奈良井宿には観光客もすごく来てにぎわっているので、「こっちにも誘客があれば」というのに加えて、「平沢を出て行った若い人たちが、故郷の魅力を再発見してくれるきっかけになってくれるのが一番」と。
すごくいい言葉をおっしゃっていただけたと思って。もちろん経済効果もすごく大事ですが、いわゆるシビックプライドを醸成したり、地域資源を再発見するために活動しているので、そうおっしゃっていただけると、「もっとがんばろう」という気持ちになります。

佐々木さん
やっぱり、井上さんが現場に入って、役場や観光協会の担当の方としっかり話をされて、関係を構築したうえで、「こういう撮影の話があるんですが、お願いできませんか?」と依頼してくださるのが大きいです。ここ数年でそういう関係が構築されたので、好循環が生まれていると思います。

長野県のさらなるアピールへ これらの課題と展望

ただ、視点を広げると、国内には数多くのFCがあり、ロケの誘致を競い合っているのも事実。そうしたなかで、どのように長野県の魅力をアピールしていくのか。最後に3人に課題や展望を語ってもらいました。

井上さん
FCやSFNという言葉自体が、地域によってはまだまだ浸透していないと思うんです。まずは理解を深めてもらうことで、現場の協力関係やモチベーションも高まると思います。

佐々木さん
長野県はとても広く、北から南までいろいろな特色があり、どの市町村にも撮影スポットになり得るチャンスがあると、つくづく感じます。本当に力強いネットワークがあるので、いろいろな市町村の担当の方に知っていただいて、加わっていただきたい。そうして長野県から作品がどんどん生まれてほしいと期待しています。

原さん
これまでは、FCのある地域で多くのロケが行われてきましたが、それ以外の地域でも、もっとロケができるように協力していきたいですね。そういう地域には、まだ映像的に活用しきれいていない、長野県のポテンシャルが眠っているはずですから。

写真:信州フィルムコミッションネットワーク

豊かな自然が育み、世界が誇る「映画の県」へ。県内で培った数々の実績を携え、国とも連携できるさらなるネットワークへと、SFNへの期待が高まります。

信州フィルムコミッションネットワーク

取材・文・インタビュー撮影:岡澤浩太郎

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