「交流と創造を楽しむ、文化の拠点」を持続的な形に 小布施町立図書館まちとしょテラソ
小布施町の町立図書館「まちとしょテラソ」は、2009(平成21)年7月に開館しました。もともと町役場の3階にあった図書館を移転・新築。「交流と創造を楽しむ・文化の拠点」というコンセプトのもと、ワークショップを重ね、行政と町民の共創によってつくられた施設です。
ユニークな愛称「まちとしょテラソ」は、町の図書館であり、待ち合わせの場所でもあるという「まちとしょ」と、「世の中を照らし出す場」「小布施から世界を照らそう」という思いを込めた「テラソ」を組み合わせたもの。館長が公募制というのも大きな特徴で、これまでに映像作家や編集者など、さまざまな職業の人が務めてきました。2021(令和3)年、4代目館長として就任したのは志賀アリカさん。5年の任期を振り返りながら、その歩みと、次の世代へ託す思いについて伺いました。
静寂ではない、音や声で誰かの存在を感じられる図書館
平屋建ての館内は仕切りが少なく、真っ白な樹木のような柱が目を引きます。天井からは星のようにやわらかく照らす照明。南側にある小布施町立栗ガ丘小学校の校庭に面した窓からも光が入ります。館内はBGMが流れ、飲食も談笑もOKです。
壁や柱を最小限にし、奥の方まで見渡せる館内開放感があって、カフェのような、とても居心地の良い空間ですね。
志賀館長
あえてシームレスに全部つながっているような設計になっています。書棚は、踏み台を使わなくても取れる高さまでしか本を入れていません。書棚と書棚の間隔も、車いすが回転できるような広さになっていて、空間としてはなかなか贅沢な使い方をしています。
誰かの存在を感じられるということも居心地の良さには必要なので、静寂ではなく、人の声やBGMといった音があることも大事にしています。
靴を脱いで入る児童コーナー
書棚の間隔はゆったりしている
さまざまな「棚」で本を見せる
町民から生まれた「種の図書館」
「推し棚」や「文脈棚」などいろいろな「棚」があって、選書のテーマもユニークです。
志賀館長
ほかにも、読もうと思っているのに増えていく「積読本」を、皆で読めばいいんじゃないかということでできた「積ん棚」、町の観光施設の無料チケットが挟まっているかもしれない「OBUSE棚」などいろいろあります。スタッフと一緒に考えて、徐々に増やしていきました。
町民発信の「棚」もあります。地元の伝統品種や固定種の野菜や花の種が保管されている「種の図書館」は、種を借りて栽培して採れた種を「気持ち多めに」返すことで、循環していく仕組みになっています。
図書館はリベラルアーツの“最後の砦”
志賀館長は千葉県出身で、就任当時は27歳。学生の頃からNGO・NPO、教育機関でのインターンなどを経験して、大学卒業後はコンサルティング会社に就職。事業戦略や人材開発などに携わってきました。図書館は子どもの頃から足しげく通っていたものの、司書資格も図書館勤務の経験もなく、「まさか図書館長になるとは思ってもみなかった」と言います。
館長に応募しようと思ったきっかけは?
志賀館長
コロナ禍を機に、これからの世界に本当に必要なのは、もっと緩やかなつながりとか、ここにいていいと思えるような居場所だと考えるようになりました。そのために大事なのは、日常の揺らぎの中で平安を保ちつつ、他者とつながる体験ができる環境。そう思ったら、コンサルの仕事は続けられなかった。辞めた時は、「心が動くまで次の仕事はしない」と決めていたのに、当時お付き合いしていた今の夫が、図書館長を公募していることを教えてくれたんです。
そこで、図書館についてあらためて考えた。
志賀館長
図書館という空間は、老若男女が集う場所で、生きる気力にあふれている人も、もう疲れてしまった人も、同時に存在している。社会の“最後の砦”のような場所だと思いました。ここだったら、これからの世界に必要な環境が、地に足が付いた形で実現できるかもしれないと、ピンときたんです。
小布施については、夫が当時、「小布施若者会議」に関わっていたこともあって、外から来た人の意見も取り入れながら、さまざまな挑戦をしている町だというイメージがありました。それも良かったのかもしれません。締め切りまで3日しかなかったので、急いで小論文と履歴書を書いて速達で送りました。
志賀アリカ館長就任したのはコロナ禍真っただ中の2021(令和3)年4月でした。
志賀館長
まさに「人が集まれない」という時期で、世の中全体も沈んだ雰囲気でした。図書館も、「交流と創造を楽しむ・文化の拠点」がコンセプトなのに、まず交流が難しい。加えて、館長が不在の期間が続いていたこともあり、町の人たちと図書館の距離が少し離れてしまっていたような印象もありました。職員も、どうしたらいいか分からないというか、全体的にトーンが落ちていました。
そこで私は、聞くことから始めました。ここで働いている職員をはじめ、図書館をつくるときに携わった町の人が、今、何を思っているのかを聞きたくて、ずっと雑談をしていました。
雑談、ですか?
志賀館長
いきなり外部から来た27歳のいわゆる“ひよっこ”から、「ちょっと話そう」と言われて面談する…なんて、お互いしんどいじゃないですか。最初は「誰だよ」って思うだろうし…といっても、皆さん、そんな感じは全然なかったですけど。今となっては、「あの時は不安だった」とか、「一瞬、辞めようかと思った」とか言われますが(笑)、当時はいったんそれを飲み込んで、受け入れてくれたんだと思います。
図書館はシフト制なので、スタッフ全員が集まる機会は月に1回の蔵書整理日しかありません。そこでミーティングして企画のことや最近気になっていることなどを話すんですが、もう少し気軽にやりとりができるようにしたかったので、業務用のチャットで「雑談部屋」を作りました。
スタッフに、「自分が発言してもいいんだ」「私たちがこの図書館を作っていくんだ」と思ってもらえるように、他愛のない話をしつつ、たまに真面目な話も交えて、コミュニケーションを重ねて信頼関係を築いていきました。
枠にとらわれない挑戦が、町の人からの「やってみたい」を呼び起こす
就任直後から関係の構築に努め、コミュニケーションを図りながらスタッフのアイデアを形にしていった志賀館長。「棚」はその頃から少しずつ動き始めたと言います。そして2年目には、ヤギを飼うことにしました。
どうしてヤギだったんですか?
志賀館長
町の中で、「テラソって面白い場所だよね」という雰囲気が薄まっていたように感じていたので、面白さを取り戻すために、変なことをいっぱいやろうと思ったのが2年目です。敷地の草刈りを機械ではなくヤギにやってもらったら面白いんじゃないか?以前は動物を飼っている学校もありましたが、最近は難しいという話も聞いていました。でも、隣の栗ガ丘小学校と一緒に飼ってみるのもいいのではないか?そういった思いからヤギの放牧を始めてみました。
実際には思っていた以上に大変でしたが…でも、利用者目線でいえば、牧歌的で良い光景でした。ヤギを飼って初めて知ったんですが、この地域の60歳以上の人たちは、ヤギ乳で育っているんです。それで、おじいちゃんが小学生に「ヤギは1頭だと鳴くけど、2頭だと鳴かない」などと教えてくれるようになりました。
ヤギを飼う(提供写真:小布施町立図書館)
館内には小学生が描いたヤギの絵も
思わぬ形で世代間交流が生まれた。
志賀館長
図書館は多世代が集う場所ですが、それだけで交流が生まれることは普段ほとんどありません。イベントやワークショップを開いても、多世代が交わる機会はあまりない。小学生がおじいちゃんの話をどんな気持ちで聞いていたかは分かりませんが、でも大人になった時に、印象に残った出来事として思い出すこともあるんじゃないかな。そういう予期せぬ出会いって、良い体験だなと思います。
ヤギのほかには、どんな活動を?
志賀館長
とにかく「図書館でこんなことやっていいんだ!」と思ってもらえるようなことに、挑戦していきました。例えば、軽トラックの荷台に乗せて移動するモバイルハウス型の移動図書館。モバイルハウス本体のデザインや、どんな場所に行って、どんなふうに人とつながっていくかをワークショップを開いて皆で考え、DIYで作りました。そういう取り組みを続けるうちに、今度は町の人から「こういうことをやってみたい」という相談が来るようになりました。
多世代型部活動は、移動図書館がベースになってスタートした取り組みです。皆で同じ興味関心に向かって学び合える、連続型のプログラムというかコミュニティで、現在は、「デザイン」「ライター(語りむす部)」「対話」「暮らし探究」の4つの部が活動しています。
移動図書館(提供写真:小布施町立図書館)
多世代型部活動(提供写真:小布施町立図書館)
「交流と創造を楽しむ・文化の拠点」としての「再起」
志賀館長は、3年目から4年目に入るころまで産休・育休を取得しました。自身が不在の間は、職員が自主的に部の活動を進めてくれていたそうです。4年目の後半に復帰した時には、その活動をどのようにして持続可能な形にしていくかを考えるフェーズだったと言います。
復帰してからは、どのようなことを?
志賀館長
最後の年、5年目になる本年度は、これまで醸成してきた文化をどう引き継いでもらうかということが最大のミッションでした。
当館の館長は公募で決まりますが、任期は新年度からスタートするので、これまではなかなかうまく引き継ぎができませんでした。もちろん館長それぞれの色を出すことも大事ですが、町の人たちと一緒に積み重ねてきたことがゼロになってしまうのはもったいない。そういう思いがあったので、5代目館長は2月中旬に小布施に移住して、3月には見習いとして職員と一緒に仕事をしてもらうことになっています。
5年間を振り返って、どう感じていますか?
志賀館長
一言でいうと「再起」です。「交流と創造を楽しむ・文化の拠点」を取り戻すために試行錯誤した5年間でした。あらためて今は、“みんなの図書館”という感覚が強くなってきていると思います。この間、「子どもを連れてきやすくなった」という感謝の手紙をもらったんです。
それは逆に言えば、以前はちょっとためらうような感じがあった。
志賀館長
図書館としての方針が明確ではなく、誰も正解が分からないような状況だと、締め付ける方向にいきがちです。いただた手紙には、上のお子さんが小さいときに「静かにして」と怒られたそうで、「それ以来足が遠のいていたけど、久しぶりに下の子を連れてきたら、すごく過ごしやすい空間でした」と書いてありました。
「文化の拠点」というコンセプトは開館当時から変わりません。でも、そこにいる人が、どういう気持ちなのかが大事で、それが揺らぐと変わってしまう。図書館=静かな場所、というイメージを持っている人も多いですし、クレームが入ったら、スタッフは注意しなければいけないと考えてしまうんです。そうなってしまったのは、館長不在が続いた弊害で、誰が悪いというわけではありません。だからこそ私は、館長が旗を掲げなければいけない、「テラソはこういう方針だから、大丈夫」と言い続けなければいけないと痛感しました。
その旗を、次はしっかり受け継いでもらえますね。
志賀館長
活動をそのまま続けるということではなく、方針というか、在り方を継いでもらえることが、ありがたいと思います。「Doing」ではなく「Being」を継いでもらいたい。
図書館は本を貸し借りして、管理して、新たに仕入れて、というフローが明確にあるので、それをやっていれば最低限のサービスは提供していると言えます。でも、ここは「交流と創造を楽しむ・文化の拠点」としてあるべき姿を体現できているのか、ということを問い続けて、握り続けてほしいと思っています。
自分の頭で考えて、自分の足で情報を確かめに行く場所
インターネット、SNSや動画、そして生成AIと、以前に比べて調べものをすることがずっと簡単になりました。今、そしてこの先、図書館はどのような役割を担っていくのでしょうか。
さまざまな公共施設がある中で、図書館が「文化の拠点」として持つ役割とは何でしょう?
志賀館長
私は町の人々にとって、町に対する愛着や誇りが、文化の総称だと解釈しています。図書館は、町の歴史が書物や音、映像として残っている、そしてこれからも残っていく場所です。「蓄積していく拠点」という意味では、同じ公共施設でも、美術館や公民館とは違う役割があると思います。
確かに図書館は、郷土資料も数多くありますね。
志賀館長
以前、「テラソを何に例えるか?」というゲームをしていて、その時に私は「出島」と答えたんですよね。出島は伝統と革新が入り混じる場所で、外から来た人が足を踏み入れて、「This is Japan!」と感じていた。だから、ここに来た人が「これが小布施か!」と思ってもらえるような場所にしないと、町の唯一の公共図書館としての意味がないと思っています。公共、と考えると、どこへ行っても同じサービスを受けられるべきなんですが、でも地域図書館、と考えると全部同じだと価値がなくなってしまいます。
どういう町なのかを捉え直し続け、ありたい姿を体現し続ける、そして他所と連携して情報発信していく、ということに図書館は本来もっと力をいれるべきなのかもしれません。

これからの図書館については?
志賀館長
今は世の中に情報があふれ過ぎていますよね。だからこそちゃんと、自分の頭で考えて、自分の足で情報を確かめに行く場所としての図書館でありたい、あってほしいと思います。SNSやAIとはうまく付き合っていくことが前提としてありながら、それでも常に、その源流がどこなのかを意識しておかないといけない。本が信頼できるのは、そこに多くの人が関わって、情報が構成され、校正・校閲されている。これは世の中に出すべき情報だっていう精査がされている分、信頼度は高いということになります。図書館に置いてある本ならなおさらです。
最近、「時事棚」というのを思い付きで始めました。例えば、「ワークライフバランス」がバズワードになったときに、いろいろ賛否がありましたよね。図書館はそのどちらにも与せずに、さまざまな角度で選書して集めて、棚を作ることができます。良し悪しに反応するのではなく、自分の頭で考えて、構造を理解しようとすることが、対話の姿勢を持つ第一歩になるし、それがリテラシーだと思います。そういう問いを共有できる場所でありたいですね。
誰かの声が聞こえ、窓の外には小学生の姿が見えるまちとしょテラソ。本を読む場所であると同時に、偶然の出会いがあり、人が交わり、考え、立ち止まることのできる場所です。
ここで育まれてきた空気、そして問いは、志賀館長から次の世代へと手渡されていきます。
取材・文:山口敦子(タナカラ)
撮影:内山温那

まちとしょテラソ(小布施町立図書館)
上高井郡小布施町小布施1491-2
靴を脱いで入る児童コーナー
書棚の間隔はゆったりしている
さまざまな「棚」で本を見せる
町民から生まれた「種の図書館」
ヤギを飼う(提供写真:小布施町立図書館)
館内には小学生が描いたヤギの絵も
移動図書館(提供写真:小布施町立図書館)
多世代型部活動(提供写真:小布施町立図書館)













